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浦和地方裁判所川越支部 昭和34年(ヨ)29号 決定 1959年10月24日

申請人 川越乗用自動車株式会社

被申請人 埼玉県旅客自動車労働組合川越乗用自動車支部

主文

一、被申請人は申請人に対しその所有の自動車の車体検査証、エンヂンキー等を返還しなければならない。

二、被申請人は申請人の指定する従業員等が別紙目録記載の車庫内に立ち入り自動車の出し入れをなし、東上線川越、川越市、上福岡、坂戸各駅構内駐車場において就業し且つ申請人の川越市南町、同脇田町、福岡村、坂戸町各営業所において執務することを実力をもつて妨害してはならない。

三、申請人の委任する浦和地方裁判所執行吏は右各項の命令を執行し又は妨害を排除する為必要に応じて適当な措置を構ずることができる。

(注、保証金五万円)

(裁判官 土方一義)

(別紙)

目録

川越市大字脇田九一番地

一、木造亜鉛葺平家建一棟建坪十八坪の車庫

一、亜鉛葺平家建一棟建坪七坪五合の車庫

川越市大字川越字南町八五六番地

一、瓦葺二階建一棟建坪八坪七合五勺の階下車庫

一、無蓋車庫一九坪五合

以上

【参考資料】

仮処分命令申請

申請の趣旨

債務者組合は債権者会社に対し債権者会社所有の自動車の車体検査証、エンジンキー等を持出し又は債権者会社の指定する従業員等が別紙目録記載の車庫内に立入り同車庫内に格納してある債権会社所有の自動車の出入れ及び東上線川越駅、川越市駅、上福岡駅並びに坂戸町駅各構内駐車場に於ける旅客運送営業をするにつき実力を以て妨害してはならない、尚持出したエンジンキー等は之を債権者会社に引渡せ。

債務者組合は債権者会社の川越市南町、脇田町、入間郡坂戸町、同福岡各営業所の電話の使用を妨害してはならない。

執行吏は右命令る施行する為に適当な措置をとる事が出来る。

との裁判を求める。

申請の理由

一、債権者会社は一般乗用旅客自動車運送事業並びに右に附帯関連する一切を業務とし、川越市大字脇田九一番地に本店を、同所及び川趣市大字川越字南町八五六番地その他に車庫を設け、乗用自動車二十三台を使用し従業員四十三名を使用している。債務者組合支部は右会社の従業員三十一名が組織している労働組合支部である。

二、債権者会社は昭和三十四年十月二十日附を以て債務者組合員中水落賢三、大須賀斌司の二名を解雇した。水落賢三は無届欠勤三日を重ね又交通事故により一ケ月就業停止の行政処分を受くるや擅に職場を離れ聊かも反省の態度を示さず、会社としては他の従業員との関係上已むを得ず解雇したものである。大須賀斌司は臨時雇であつたが、会社の職制の改変により、その必要なきに至つたので解雇したものである。解雇にあたり、何れも退社予告手当及び退職金を支給する旨通知してある。

三、債務者組合支部は右二名の解雇を不当として同年十月二十一日午後五時より無期限のストライキを決行する旨及びエンジンキーを組合で保管する旨会社に通告して来た而して自動車は車庫に格納した上、エンジンキーは組合側が持ち去つた、エンジンキーがなければ自動車は動かす事が出来ないので会社側は同日直ちに之が即時返還を請求し且エンジンキー返還要求書を組合に手交したが、組合側は要求を拒否し、要求書を返還し之が受領を拒絶した。

四、エンジンキーの保管について組合側は車輛の盗難、火災等の予防の為、保管すると云つているが、エンジンキーは元来会社のもので、会社に保管の権利及び責任がある。従つて従来終業後は脇田町車庫に於ては役員宅に届け、南町車庫に於ては所定の場所に置く様に指示されていた。組合側の云う盗難、火災等の予防も会社の当然の責任であり、之が実行に当つて来た、今更組合が之が責任をとつて保管する理由がない。

五、要するにエンジンキーがなければ自動車を走らせる事が出来ないので、エンジンキーを組合側で保管すると云うのは盗難、火災等の予防の為ではなく、自動車を走らす事が出来ない様に、即ち旅客運送営業を継続出来ない様に之を妨害するの挙に出でた事は明かである。

そこで会社では已むを得ずエンジンキーを取替えんとして車庫の工員を派遣するも、組合側は之を妨害して、自動車に触れさせず、従つてエンジンキーの取替も出来ず自動車の使用を不能に陥らしめている。以上によつて債務者側の行為は正当な争議行為を逸脱すると共に会社経営を破壊し、回復し難い重大な打撃を及ぼすものであるから、債権者は債務者に対し、妨害禁止の本訴の提起を準備中であるがその確定を俟つては回復し難い損害を蒙むを虞があるから本申請に及んだ次第である。

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